蝉丸 ー猫の姿をした妖姫ー

2016年10月27日(木)〜11月2日(水)@東急渋谷本店6階 特選洋食器リヤドロ前

腰に大輪の白い百合を有し、上半身を優雅に反らす猫の姿をした妖姫。
造作作家の蝉丸さんは、あじさいで有名な北鎌倉は明月院の少し先の鬱蒼とした緑に包まれた工房で、世にも珍しい猫の妖姫たちをお造りになります。

まずはいくつか作品をごらんください。 

毛皮にみずからの身体を深くうずめて、うたた寝をする。

額まですっぽりと豪奢を纏い、桃色の羽までもらって、なぜそう物憂げな目をする。

燻されたような金銀と黒だけを纏いながらも、眼差しに特別な存在感を宿す。

どうでしょう。猫という存在が持つ「優雅さ」「妖しさ」「独立心」をここまで見事に昇華させた作家さんがいらっしゃるでしょうか。

今年の初夏、あじさい寺として有名な明月院ちかくの工房を訪れて、初めてこの猫たちに出会った時、鳥肌がとまらず、ため息をついたことを覚えています。

特に素晴らしいのは、この「源氏物語」の世界観です。

これは空蝉(うつせみ)。若い頃の光源氏が知り合い、影響を受けた女性たちの一人。
源氏の求愛から逃れるように、一枚の着物とを残し逃げ去った。残された抜け殻のような衣と温もりに、源氏はセミの抜け殻にたとえて和歌を読みました。それが「空蝉」という名前の由来です。

上の写真の空蝉の足元に、正方形の板があるのがわかりますか?
これは空蝉を表す「源氏香之図」です。

源氏香とは組み合わせた香木の香りを嗅ぎ当てる遊び、組香の一つです。香席では香を「嗅ぐ」と言わず、「聞く」と言います。

香席に五回の聞香炉が回され、香りを聞いた香席の客は、紙の上に右から順に五本の縦線を引き、同じ香りと思う線の上の部分を横線で繋ぎます。五回香りを聞いた後にその図を、源氏物語の巻名が当てはめてある「源氏香之図」の巻名で答え、最後に客の答えと香席の香木を照らし合わせて遊びます。

後に、この「源氏香之図」のデザインは独自に用いられる程広く好まれるようになり、「源氏香」といえば源氏香之図のデザインそのものを指すようにもなりました。アールデコのような現在でも新鮮な香りが漂う「源氏香」の意匠が蝉丸さんのセンスで見事に形になっています。

花の宴。源氏は二月二十日の南殿の桜花の宴の後、月の美しさに誘われ弘微殿の廊下を歩いていると、「朧月夜にしくものはなし」と口ずさみながら出てきた姫君と名前も知らぬまま一夜を明かし扇を交換して別れます。そして三月下旬の右大臣家に招かれた藤の宴で、この姫君が右大臣家の六の君である事がわかります。

そして桐壺。言わずと知れた光源氏の産みの母。
いつの時代であったか、多くの女御や更衣の侍る中にきわだってときめいた更衣がいました。高い位の家柄ではありませんが桐壷帝の寵愛を一心に受けた桐壷の更衣と呼ばれた美しい人で、皇子(源氏)を産んだ後も他の后達から嫉妬にあい心労により源氏3歳の時若くして亡くなります。

この源氏物語のシリーズは実は香炉になっております。

これは桐壺を後ろから見た様子。このように本体は空洞になっていて、背中には三本の孔があります。下に小さな引き出しがついており、そこにコーン型のお香を入れます。

源氏物語のシリーズはそれぞれにストーリー性があり、ご本人からその背景をお聞きしながら作品を拝見すると、本当に面白い。美の物語です。

蝉丸さんにかかると、招き猫もこの通り。

「吉祥」と名付けられた対の招き猫。胸元をご覧ください。右手を挙げる「吉」と左手を挙げる「祥」です。右手を挙げているものはお金(幸運)をよび、左手を挙げているものはお客さん(人)を呼ぶといわれています。

その背後には、三人官女や三美神を思わせる、吉祥よりもひとまわり小さな招き猫たち。圧巻です。

ひと抱えもある大きな作品から、手のひらにのる小さな作品までありますが、絵付けの細かさは一緒です。

ぜひともこの世界観を多くの方々に知っていただきたい。
東急渋谷本店にぜひ御運び下さいませ。